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東京高等裁判所 昭和31年(行ナ)50号 判決 1958年7月03日

原告 ライフアン工業株式会社

被告 三菱電機株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「昭和二十八年抗告審判第四二五号事件について、特許庁が、昭和三十一年九月八日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は、特許第一五一〇三九号「物品の包装方法」の特許権者であるが、昭和二十六年六月七日被告を被請求人として、特許庁に、別紙目録記載の「イ」号説明書に示す積層乾電池素体の絶縁方法は、特許第一五一〇三九号の権利の範囲に属することの確認の審判を請求したところ(昭和二十六年審判第一七〇号事件)、特許庁は昭和二十八年二月七日原告の審判の請求は成り立たない旨の審決をなしたので、原告は同年三月二十四日右審決に対し抗告審判の請求をしたが(昭和二十八年抗告審判第四二五号事件)、特許庁は昭和三十一年九月八日原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は同年十月四日原告に送達された。

二、審決の理由の要旨は、原告の前記特許権の請求の範囲の項における「皮膜」とは、「ゴム嚢皮膜」を指すから、原告の特許発明は、「皮膜の形態を特に『嚢』と規定しているものと解すべき」ものとして、「嚢」の字義上からして、「本件特許発明における皮膜は、底部と包被に当り閉ざさるべき口部を持つ特定形態のそれであり、従つて被包装物を挿入して口部を閉ざすことが、その発明の構成要件であるとみなければならない。」とし、かつ「本件特許発明の嚢口は当然閉ざさるべきものと解しなければならない。」という考えから、本件特許発明の要旨とするところが、「適宜形状に調製したゴム嚢を……該皮膜を被包装物に縮着せしめた後に、嚢の口部を封鎖密閉することを特徴とする物品の包装方法」に存するという論を導き出し、「『イ』号説明書に記載するところのものは、絶縁皮膜により全面を気密に被覆しなくとも、ただ周縁部だけに密着被覆を施せば、絶縁の目的を達し得る積層乾電池素体の絶縁方法に関するものであるから、」従つて「『イ』号説明書記載のものは、本件特許発明の発明構成上の必須要件とする加熱膨脹させた嚢内に、被包装物を容入し、かつ嚢の口を気密に閉塞して包装する点を欠如しているものと認めざるを得ない。」というのである。

三、しかしながら審決は、次の点において違法であつて、取り消さるべきものである。

(一)、審決は、原告の特許発明の「特許請求の範囲」並びに「明細書における説明の趣旨」に対する審理を尽さず、これをゆるがせにしたため、誤認誤解の違法を冒したものである。

本件特許の要旨は、明細書の「特許請求ノ範囲」の部に、「適宜形状ニ調製シタルゴム嚢ヲ………セシメテ皮膜内ニ被包装物ヲ挿入シ、之ヲ再ビ外部ヨリ『加熱シテ該皮膜ヲ被包装物ニ縮着セシムルコト』ヲ特徴トスル物品ノ包装方法」と明記してあることによつて知ることができるように、本発明における「包装」の特徴は、包装するゴム皮膜が包装される被包装物体に加熱によつて縮着する点に存するのであつて、このような包装を得るためには、必ずしも被包装物品の全体を「嚢」の中に容れることを要件としないのは勿論、またその「嚢」の口部を封鎖密閉することをその必須要件とするものでもない。

「包装」という字句がどのような意味に使用されているのであるかについて、特許庁発行の実用新案公報の記載事項を参照してみるに、勿論被包装物全体を被包することも、「包装」の一種ではあるが、その「全体の被包」ということは、包装の必須要件ではない。包装することは、必要とする個所を包装すれば十分なのであつて、露出しても差支えのない一部の個所を露出させても、要所要所が被包してあれば、包装の目的は十分に達成せられ、これもまた「包装」であり、実用新案公報の記載例でも、この趣旨で「包装」という言葉が使用されている(甲第一号ないし第九号証参照)。また本件特許の出願に対し、特許庁が昭和十七年一月九日付でなした拒絶理由の通知中にも、被包装物を部分的に被包することを指して、「包装」といつている(甲第十号証)。これらの実例よりしても、「包装」とはその被包を必要とする個所を被包すれば足り、被包装物全体を被包することを必須要件としないことは明らかである。そして本件発明の包装は、「………皮膜内ニ被包装物ヲ挿入シ、之ヲ再ビ外部ヨリ加熱シテ該皮膜ヲ被包装物ニ縮着セシムル」ものである以上、ここにいう皮膜は、必ずしも審決の観念する嚢であることを必要としないものであることは勿論、この皮膜で被包装物全体を被包することを、その必須要件とするものでもないことは明らかである。

本件発明の要旨とする包装は、ライフアンと名付けた塩酸化ゴム皮膜を、加熱によつて被包装物に縮着せしめる点に存するのであつて、「嚢」で被包装物を包装することを意味するものではなく、また実施例の記載のように、皮膜嚢を以て被包装物を包装する場合でも、「加熱による皮膜の縮着作用」を以て、本発明の要旨とする包装は終るのであつて、爾後の操作である口部を閉じることは、本発明の本質外のことに属し、特殊別異の目的のため本包装に特に附加される口部の処理であつて、明細書の実施例の説明は、この趣旨を説明せるものに他ならない。これら実施例において、本件発明の要旨とする包装方法である、「加熱によつて皮膜を被包装物に縮着せしめること」の次に、口部に関する説明を付加したのは、本発明の特徴とする加熱縮着による包装終了後において、この被包装物を乾燥、吸湿、虫害より防がんとする場合における口部の処理に関するものである。口部の処理が本来の包装とは別異のものであることは、本発明の要旨たる包装は加熱によつて行われるのであるにかかわらず、口部の始末は高温度の水蒸気を吹き付け、又は百度前後の乾燥空気を吹き付けて、皮膜を被包装物に縮着せしめた後、常温度中で行われる仕事であることから、直ちに理解し得られる事柄である。又明細書における「口部に関する説明」が、本発明の特徴である包装方法の一部分に関する説明ではなく、特殊の目的のために行われる本包装の本質外の操作に関するものであることは、三実施例の説明の行文上から明らかである。唐墨、鰹節、塩化石灰のいずれの場合も、口を閉ざすことは、加熱縮着を要旨とする本包装の終つた後に、特殊の目的を得んとする場合に、本来の包装とは別個になされる措置であることを明らかにしているものである。実際の実施においても、口部を単に「折りたたむ」か、口部に余剰が十分にあるときには、余剰皮膜自体を「輪差に結ぶ」だけでも、一定期間は、前記の副次的目的を達することができ、必ずしも封鎖密閉を要しない。のみならず前記の如き包装後における口部処理方法では、審決のいうような封鎖密閉は事実上期待し得られないことはいうまでもない。

審決においては、「防湿、防乾燥並びに防虫による被包装物料の長期保存の作用効果を達成させる点」が、本件発明の副次的目的であると認めたにもかかわらず、「本件発明の包装法はあらゆる被包装物料に対して適用するも、上記作用効果の生起を可能とするものでなければならない。」と認定したのは、包装に随伴せしめ得るに過ぎないところの、前記副次目的を以て、包装自体の本来の目的であるかの如く誤認したものであり、この誤認を冒したために審決は本件発明の包装に対して更に三つの誤認を重ねるに至つた。本包装に伴わしめ得るに過ぎないところの、上記副次的目的を主目的と誤認せる結果、しかもその目的は長期保存にあるものと、ほしいままに規定せる結果、ここに口部操作の事実から離れて、「嚢の口部を封鎖密閉することを特徴とする包装方法である。」という第二の誤認に陥つている。この誤りは審決が、本件発明の包装がその本来目的としないものを本来の目的と誤認した結果から、当然に出て来た理論上の帰納であるが、封鎖密閉ということは、本件発明の明細書の説明の全般からしても帰納し得ない結論で、全く審決の独断である。前述のように、口部を閉じることは、加熱縮着による本包装完了後に行われる仕事に属し、かかる操作では「封鎖密閉」が期待できないことは常識上明らかである。いわんや、前述のように、現実の実施においては、封鎖密閉を行わずに、前述のような副次目的を達しておるにおいておやである。これすなわち、審決のこの認定を独断といつて憚らない所以である。審決は、本件発明の包装を、「口部を封鎖密閉する包装」と誤認した結果、更にその包装を、「皮膜を内容被包装物に縮着させかつ嚢の口部を封鎖密閉する物品の包装方法である。」と結論せざるを得ざる立場に立ちいたり、遂にかかる妄断を敢えてした、これ第三の誤認である。

以上三つの誤認の結果は、理論上必然的に、本件発明の要旨を、前述のように結論せざるを得ざるにいたり、ここに本件発明を柵上げして、全然別箇の包装方法を、本件発明の包装に擬する過誤に陥つたのである。

なお「特許請求ノ範囲」の文中にいう「挿入」とは、必ずしも被包装物全体を意味するものではなく、「挿入」とは、単にある物を他の中に「さしこむ」ことであり、その差し入れる物の全体を、受け容れる物の中に没入してしまうことを意味するものではない。普通われわれが「挿入」というのは、「没入」というのと異なり、差し入れ物の一部が露出している場合が却つて多い。のみならず、本件特許発明が、必ずしも被包装物の全体を被包するものでないこと及び本件特許発明において包装というのは密封する包装でないことは、本件特許発明と同日に同一出願人が出願し、本件特許とは別個の発明として特許された特許第一五三四八二号明細書における「発明ノ詳細ナル説明」の項と、本件特許のそれとの記載を比較対照すれば明白である(甲第十五号証参照)。

(二)、審決は、本件特許発明の要旨を認定するにあたり、その明細書中の「特許請求ノ範囲」の項に、「口部を封鎖密閉する」ことを明示していない厳然たる事実を認めながら、先ず第一段において、本件特許発明の皮膜の形態を特に「嚢」と規定すべきであるとし、第二段において「嚢」とは「有底で一口を有し、中に物を容入し、口を閉ざすべく仕立てた用具の総称である。」とし、これに基いて、本件特許発明の要旨を上述のように認定したのは、甚だしい事実誤認とともに、理由不備に陥つている。

先ず第一に、本件発明にいう「嚢」とは俗にいわれる「ふくろ」を意味し、そしてその皮膜が、「ふくろ」の形において調製されるものであること及びこれが、まま片口の「ふくろ」の形において実施されることのあるのは、事実そのとおりであるが、さればといつて、右の皮膜は、常に「底のあるふくろ」の形で包装用にするものではなく、両口のふくろ()にして用ゆる場合が比較的多いのであるから、審決が、本件特許のライフアンという薄い皮膜調製に至るまでの過程が、「片口のふくろ」であることから、直ちに包装に用いられる皮膜もまた、いつも「片口ふくろ」(嚢)であると判断したのは、まさに事実の誤認である。

次に右第二段、第三段の断定も、まことに憐れむべき妄断といわなければならない。およそ科学の進歩発達に伴い、ある一つの物、たとえば「ふくろ」という形のものが、従前曽て考えられもせず、見られもしなかつた、新規の用い方を現出しつつあるのが社会における人類の生活の文化発展の現象であり、特許や実用新案の生命の一も実にここにある。然るに審決は、「『嚢』とは有底で一口を有し、中に物を容入し、口を閉ざすべく仕立てた用具の総称である。」という旧来の狭い普遍的でない観念にとらわれ、「ふくろ」に両口を有するもの()のあることを知らず、また「含嚢」という場合は、「物をつつむこと」であることを知らず、本件特許の包装に「嚢」という字を使つてあるという一事を以て、たやすく「嚢という表現を用いている以上、本件特許の皮膜は、底部を包被に当り閉ざさるべき口部をもつ特定形態のそれである。」と認定したのは、新規発明の何たるかを理解せず、社会の進化に伴わない固陋の見解であり、「従つて被包装物を挿入して、口部を閉ざすことがその発明構成要件であるとみなければならない。」というのは、前記用語の字義実例に疎い理由不備を包蔵するものである。

最後に本件特許の明細書中「特許請求ノ範囲」の項には、上来繰り返えし述べるように記載され、「塩酸化ゴム皮膜の形態に制限を加えてもいない」し、かつまた「該包装物に加熱によつて縮着せしめる」ことを以て包装を終る趣旨が明示されているにもかかわらず、審決が本件発明明細書の全文にわたり、皮膜が「嚢」であつて、しかも口部を閉ざすことにつき、趣旨一貫し、かつ「形態任意の塩酸化ゴム皮膜を被包装物に加熱縮着すれば足りる。」という思想を暗示する記載が発見できないとして、本件発明の要旨を、上来述べるように認定したのは、前記二点を見落したか、或は偏見に陥つて妄断を下したかの過誤を冒したものというべきである。もしそれ明細書の三実施例は、前述せるところによつて明らかなように、特殊の目的を達せんとする場合に対する副次的目的のためのものであることは、余剰口部の処理が、本件特許発明の加熱による包装作業を終つた後において施される操作なることに徴して明らかであるから、これを本件特許発明と認定したのは、明らかな事実誤認である。

(三)、審決は、前述のように本件発明が、「嚢状の皮膜の中に被包装物を挿入し、該皮膜を被包装物に縮着せしめた後に嚢の口部を封鎖密閉する」点を必須要件とするものと誤認した結果、「『イ』号説明書に示す『積層乾電池素体の絶縁方法』は、本件発明の構成上の必須要件とする加熱膨脹させた嚢内に、被包装物を容入し、かつ嚢の口を気密に閉塞して包装する点を欠如しているものと認めざるを得ない。」との誤つた結論を導き出しているのである。

しかしながら「凡ソ特許ニ係ル工業的発明ノ範囲ハ、特許明細書中ニ記載セラレタル特許請求ノ範囲ニ依リテ定マルモノナリ」ということは、大審院の判例を俟つまでもなく、特許法施行規則第三十八条第六項に「特許請求ノ範囲ニハ発明ノ構成ニ欠クヘカラサル事項ノミヲ一項ニ記載スヘシ」とあることよりして明らかなところであり、本件特許発明の要旨が、特許請求範囲に明記されたところの「適宜形状ニ調製シタル『ゴム』嚢ヲ乾燥塩化水素ヲ以テ塩酸化セシメタル後、之ヲ加熱シツツ膨脹セシメテ製シタル皮膜内ニ被包装物ヲ挿入シ之ヲ再ビ外部ヨリ加熱シテ該皮膜ヲ被包装物ニ縮着セシムルコトヲ特徴トスル物品ノ包装方法」にあり、その前半は、本件発明の包装方法に使用される包装物たる塩酸化ゴム皮膜の製法に関し、その後半が該塩酸化ゴム皮膜に被包装物を包装する方法に関し、そしてその後半の物品の包装方法というのは、「………皮膜内ニ被包装物ヲ挿入シ、之ヲ再ビ外部ヨリ加熱シテ該皮膜ヲ被包装物ニ縮着セシムルコトヲ特徴トスル物品ノ包装方法」と明記してあることによつて知り得るように、本発明における「包装」の特徴は、包装するゴム皮膜が包装される被包装物体に加熱によつて縮着する点に存するのであつて、このような包装を得るためには、必ずしも被包装物件の全体を、「嚢」の中に入れることを要件としないのは勿論、またその「嚢」の口部を密封することを、その必須要件とするものでもないのであることが、前記(一)においても詳述したように明らかである以上、審決も認めているように、本件発明の使用する「塩酸化ゴム皮膜」が、「イ」号説明書の「加熱により伸張せられ、かつ内力を与えられた絶縁薄膜」の一種に属することは、塩酸化ゴムの物理的性質上明らかであり、かつ「加熱により伸張し、かつ、内力の与えられる特性を持つた皮膜の内側に物品(積層乾電池の素体を構成する滅極合剤、電解液吸収体及び炭素亜鉛結合電極を重ねたもの)を存在させた後加熱により内力の復帰性を利用して皮膜を収縮させ、内側の物品に密着させる点」において、両者は一致するものであるから、「イ」号説明書に記載されたところは、本件発明の権利範囲に属するものであることは当然である。

審決は本件発明の必須要件についての誤認、誤解の結果「イ」号説明書に記載したものは、本件発明の構成上の必須要件を欠除するものとして、原告の抗告審判の請求は成り立たないとしたのは誤りであり、少なくとも審理不尽理由不備の違法があり、取消を免れないものである。

四、本件特許発明と「イ」号説明書にあたる被告の特許第一五七二三六号発明との内容を比較対照すると、両者は、(1)加熱により伸張せられ、かつ内力を与えられた皮膜を使用し、該皮膜に加熱して、その内力の復帰性を利用する点、(2)両方の使用する皮膜が共に絶縁性を有する点、(3)加熱による皮膜の復帰性により、その皮膜が内側の物品に密着する点、(4)皮膜が内側の物品に密着する結果、皮膜内の数個の物品は一個の塊の状態を呈する点及び、(5)後者の「皮膜を客体の周辺に当てる」ということと、前者の方で「底のないふくろ即ち筒状ライフアンに客体を挿入する」という点で一致する。次に(イ)包装の材料として、前者はライフアンと呼ばれる皮膜に限つて使用し、他の皮膜を使用しないのに対し、後者は皮膜を限定せず、加熱により伸張せられ、かつ内力を与えられ、しかして加熱により復帰性を有し、しかも絶縁性を有することにおいて、ライフアンと特質を同じくする皮膜を使用する点、(ロ)包装の客体について、前者は何等の制限をもおかないのに対し、後者は客体を積層乾電池素体に限つている点、(ハ)皮膜が内側の物品に密着した結果として呈する状態について、前者は、皮膜を主として、「被包装物に縮着せしむることを特徴とする」と表現したのに対し、後者は、内側の物品を主として、「一体に抱合せしむることを特徴とする。」と表現している点、(ニ)前者は、「物品の包装方法」と称するに対し、後者は「積層乾電池素体の絶縁方法」と称する点において、相違しているかに見える。

しかしながら右(イ)ないし(ニ)の四点について考察を加えれば、(イ)前者の使用するライフアンは特許品であるために、後者はライフアンと同一の特質を有する皮膜を使用しているに過ぎない。(ロ)前者は客体に制限を加えていないから、後者の積層乾電池の素体は前者の客体のうちに包まれる。(ハ)皮膜が内側の物品に密着した結果として生じた状態に対して、前者は、加熱によつて皮膜自体が、内側の物品に縮着した作用の面から、後者は、加熱によつて皮膜が内側の物品に与えた抱合作用の面から、それぞれ説明した差違に過ぎない。(ニ)前者のライフアンは、本来絶縁性を具有しているから、これを使用して積層乾電池素体に包装を施すときは、当然に積層乾電池素体の絶縁方法となるから、絶縁方法となる点において両者は同一である。

以上の如く、両者を比較対照すると被告の特許すなわち「イ」号説明書記載のものは、原告の本件特許権の範囲に含まれることは、まことに明白である。

第三被告の答弁

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因に対し、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一及び二の事実はこれを認める。

二、同三の主張は、これを否認する。

(一)、そもそも特許請求の範囲の何であるかが争となるときは単に明細書中「特許請求ノ範囲」の項の記載に抱泥することなく、明細書中の他の部分並びに発明の性質及び目的に着眼して解釈すべきことは、特許発明の範囲を確定するに際し、ひろく採用されて来た法則である。ひるがえつて本件特許明細書を詳細に検討するに、その特許請求の範囲の項には、「口部を封鎖密閉する」ことは記載されていないが、その明細書全般の記載からみて、本件特許発明の発明者が出願当時に意識した主観内容、すなわち発明思想は、「適宜形状に調製したゴム嚢を………該皮膜を被包装物に縮着せしめた後に、嚢の口部を封鎖密閉することを特徴とする物品の包装方法」にあつて、その目的とするところは、嚢の形態の皮膜を被包装物に密着して嵩低にし、かつ口を封鎖密閉して防湿、防乾燥並びに防虫に適した長期保存に耐える包装物を得んとするにあることは明らかである。

昭和十七年七月十七日当時特許局から発行された本件特許明細書において、その「発明ノ性質及目的ノ要領」の項中には、「………ゴム嚢ヲ………膨脹セシメテ成ル皮膜ノ内部ニ被包装物品ヲ装填シ、該皮膜ヲ………」と明記され、又その「発明ノ詳細ナル説明」の項の冒頭にも、「………ゴム嚢ヲ………膨脹セシメテナル皮膜ノ………該皮膜ヲ………」と明記され、更に「本発明ハ………上記ノ方法ニ依リ膨脹セシメタル皮膜内ニ………」と明記され、皮膜が嚢の形態以外の形態を有する場合については、全くその記載がない。従つて本件発明における「皮膜」は、明らかに「嚢」を規定しているものである。そして「嚢」とは「有底で一口を有し、中に物を容入し、口を閉ざすべく仕立てた用具の総称」で、いわゆる袋であつて、従つて本件特許の「皮膜」は、底部と包被に当り閉ざさるべき口部を持つた特定形態のものであることは明らかである。

次に本件特許発明の目的については、明細書中その「発明ノ性質及目的ノ要領」の項に、「被包装物ニ密着シテ嵩低ニシテ、且防湿、防乾燥並ニ防虫ニ適シ、長期保存ニ耐ヘ得ル包装物ヲ得ントスルニアリ。」と明記され、又その「発明ノ詳細ナル説明」の項にも、「該包装物ハ甚タ嵩低トナルノミナラズ、被包装物ノ吸湿、乾燥並ニ虫害防止ニ適スル理想的包装物ヲ得ルモノナリ。」と明記している点から見て、発明者が意図した目的が、単に皮膜(嚢の形態を有する)を被包装物に密着して嵩低にする点のみに存するのではなく、それと同時に防湿、防乾燥並に防虫に適した長期保存に耐える包装物を得んとするにあることは明らかである。

本件発明の目的が右のとおりである以上、かかる作用効果を奏するためには、不透水、不通気性の嚢の形態を有する塩酸化ゴム皮膜を以て被包装物を囲繞し、皮膜の内外を完全に遮断隔離することが、絶対必要であることは経験則上明らかであつて、本件特許発明の嚢の形態を有する皮膜の口部は、明細書中「発明ノ性質及目的ノ要領」の項に記載されたとおり、皮膜を包装物に縮着させ、後に当然封鎖されるべきものである。

まして本件特許明細書の三実施例には、ことごとく「嚢の口部を閉じる」旨が記載されており、かつ明細書のいずれの個所にも、「任意形態の塩酸化ゴム皮膜を被包装物に加熱縮着させる」ことのみを以て、その発明の要旨とすることを示唆する記載は全く見当らない。

原告の主張(一)の要旨は、明細書全般の記載により明らかにされた発明者の出願当時における意識内容すなわち発明思想から、いかに逸脱したものであるかは、前述の明細書全般の記載に照しての本件特許発明の解釈より明らかなことである。これひとえに、特許請求の範囲の項中に、「口を封鎖密封する」ことの記載がないこと、並びに包装なる辞句の解釈に拘泥して、ことさらに出願当時発明者により、意識されなかつた事柄にまで、発明の権利範囲を拡張せんとする意図に由来するものである。そしてこの拡張解釈に急なあまり、包装の辞句の種々の解釈を求めつつ、明細書の記載から、皮膜が嚢が形態であると解釈するのが至当であるのにもかかわらず、「皮膜は嚢であることを必要としない。」とまで極言している。

なお原告の主張するような本件特許発明の権利範囲の解釈が、特許請求範囲を実質上拡張するものであることは、原告が皮膜が嚢の形態でない場合、被包装物全体を被包することを要しない場合及び被包後に口部を密封することを要しない場合の実施例の追加を特許庁に求めた明細書の訂正許可の審判の請求が(昭和二十八年審判第一六一号事件)、かかる実施例の追加は、特許請求の範囲を実質上拡張するものとして成り立たなかつたことによつても明らかである。

(二)、原告が本件において、「イ」号説明書に示す積層乾電池素体の絶縁方法とは、被告の有する特許第一五七二三六号発明の方法を意味するものであるが、本件特許発明が、「嚢状の皮膜の中に、被包装物を挿入し、該皮膜を被包装物に縮着せしめた後に、嚢の口部を封鎖密閉する」ことを必須要件とするものである以上、本件特許発明の使用する塩酸化ゴム皮膜が、「加熱により伸張せられ、且内力を与えられた絶縁薄膜」の一種に属し、かつ、「イ」号説明書に示すところの「加熱により、伸張し、且内力を与えられる特性を持つた絶縁薄膜」が、「塩酸化ゴム皮膜」であつたとしても、積層乾電池の素体を構成する滅極合剤、電解液吸収体及び炭素亜鉛結合電極を重ねたものの周側面だけに塩酸化ゴム皮膜を当て、そこで収縮密着を行わせ、周側面において絶縁と、各部片の緊縛一体化の効果を奏するようにした「イ」号説明書記載のものは、本件特許発明の構成上の必須要件である「加熱膨脹させた嚢状の皮膜の中に、被包装物を挿入し、該皮膜を被包装物に縮着せしめた後に嚢の口部を封鎖密閉する」点を欠いているものとして、これを本件特許権の権利範囲に属しないとした審決には、原告主張のような違法な点はない。

三、原告の本件特許発明と「イ」号説明書記載のものとを比較するに、前者は「適宜形状に調製したるゴム嚢を乾燥塩化水素を以て塩酸化せしめたる後水洗し、これを外部より加熱しつつ内部に空気を圧入して膨脹せしめてなる皮膜」すなわちいわゆる塩酸化ゴム皮膜を使用することを、その一構成要件とするものであるから、本件特許発明の効力は、塩酸化ゴム皮膜の使用にのみ及ぶものであつて、これ以外の加熱により伸張せられ、かつ内力を与えられた絶縁薄膜で、しかも加熱により内力の復帰性を有するもの、例えば醋酸ビニール、塩化ビニール、ポリスチロールの薄板の使用には決して及ばないものである。この点から見ても、「イ」号説明書記載の方法が、本件特許権の権利範囲に属するとの原告の主張が、いかに不当なものであるかが、極めて明らかである。

今仮りに「イ」号説明書中「その周辺に加熱により伸張せられ、且内力を与えられたる絶縁薄膜を当て」を、「その周辺に塩酸化ゴムの薄膜を当て」としたとしても、この場合においても、(1)使用される塩酸化ゴムの薄膜は、飽くまでも、両端の開口した筒状の形態を有するものであり、(2)かつまた、この薄膜を客体たる滅極合剤、電解液吸収体及び炭素亜鉛結合電極を重ねたものの周辺にのみ当てるのであるのに対し、本件特許発明において使用される(1)塩酸化ゴムの皮膜は、有底の嚢の形態であり、(2)かつまた、この皮膜の内部に被包装物品を装填し、該皮膜を再び外部より加熱して包装物に縮着せしめたる後口部を封鎖するものであるから、「イ」号説明書記載のものが、本件特許権の範囲に属しないことは、あまりにも明白である。

第四証拠(省略)

理由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、その成立に争のない乙第一号証によれば、本件特許発明の明細書中、「特許請求ノ範囲」の項には「本文所載ノ目的ヲ以テ本文ニ詳記スル如ク、適宜形状ニ調製シタル『ゴム』嚢ヲ、乾燥塩化水素ヲ以テ塩酸化セシメタル後、之ヲ加熱シツツ膨脹セシメテ製シタル皮膜内ニ、被包装物ヲ挿入シ、之ヲ再ビ外部ヨリ加熱シテ、該皮膜ヲ被包装物ニ縮尺セシムルコトヲ特徴トスル物品ノ包装方法」と記載され、「発明ノ性質及ビ目的ノ要領」の項には、「本発明ハ適宜形状ニ調製シタル『ゴム』嚢ヲ、乾燥塩化水素ヲ以テ塩酸化セシメタル後水洗シ、之ヲ外部ヨリ加熱シツツ、内部ニ空気ヲ圧入シテ膨脹セシメテ成ル皮膜ノ内部ニ、被包装物品ヲ装填シ、該皮膜ヲ再ビ外部ヨリ加熱シテ、包装物ニ縮着セシメタル後、口部ヲ封鎖スルコトヲ特徴トスル物品包装方法ニ係リ、其目的トスル所ハ、被包装物ニ密着シテ、嵩低ニシテ且防湿、防乾燥並ニ防虫ニ適シ、長期保存ニ耐ヘ得ル包装物ヲ得ントスルニアリ。」と記載されている。

またその「発明ノ詳細ナル説明」の項にはその第一段に、「本発明ハ適宜形状ニ調製シタル『ゴム』嚢ヲ乾燥塩酸化水素ヲ以テ塩酸化シ、之ヲ外部ヨリ加熱シツツ内部ニ空気ヲ圧入シテ膨脹セシメテナル皮膜ノ内部ニ物品ヲ挿入シ、然ル後之ヲ再ビ外部ヨリ加熱シ、該皮膜ヲ収縮セシメテ、内部被包装物ニ密着セシムル物品ノ包装方法ナリ」とし、第二段に、「『ゴム』嚢ヲ塩酸化セシメタル後加熱シツツ膨脹セシムルトキハ、ヨク其ノ原型ノ数十倍ニ膨脹セシメ得ルモノニシテ、斯クシテ製シタル皮膜ハ常温ニ於テハ伸縮性ヲ失ヒ、膨脹シタル状態ニ其ノ形状ヲ固定スルモ、之ヲ加熱スルトキハ、塩酸化セザル『ゴム』嚢ト同様ノ伸縮性ヲ有シ、膨脹セシメザリシ以前ノ原型ノ状態ニ復サントスル性質ヲ有スルモノナリ」とし、第三段には、「本発明ハ塩酸化『ゴム』ノ右ノ如キ性質ヲ利用スルモノニシテ、上記ノ方法ニ依リ膨脹セシメタル皮膜内ニ被包装物ヲ挿入シ、然ル後之ヲ水蒸気温湯又ハ加熱空気ヲ以テ加熱スルトキハ、該皮膜ハ収縮シテ被包装物品ノ周囲ニ縮着スルモノニシテ、斯クシテ物品ヲ包装スルトキハ、該包装物ハ甚ダ嵩低トナルノミナラズ、被包装物ノ吸湿、乾燥並ニ虫害防止ニ適スル理想的包装物ヲ得ルモノナリ」と記載した後に、三つの実施例を示しているが、該実施例は、すべて、塩酸化ゴム皮膜内に、被包装物(からすみ、鰹節、塩化石灰)を入れ、皮膜を加熱して、外皮を被包装物の表面に縮着させた後、皮膜の口部を閉じることが記載されており、一方被包装物については、何等の限定をもしていないことを認めることができない。

三、よつて右本件特許発明の要旨について、当事者が論争の中心としている、(一)本件発明にいう「皮膜」は、「嚢」であることを必要とするものであるか、(二)「嚢」であることを必要とする場合、その「嚢」は、常に「底のある」いわゆる一方口のふくろ(嚢)ばかりでなく、二方口のふくろ(原告は、これを「」という。)であつてもよいか。(三)そしてこの場合、本件における「包装」は、被包装物の全体を「ふくろ」のうちに入れることを必要とするものであるか。最後に(四)その「ふくろ」の口部を封鎖密閉することを必須要件とするものであるかを判断するに、本件特許の明細書中「特許請求ノ範囲」の項には、「皮膜」を、単に「適宜形状ニ調製シタル『ゴム』嚢ヲ、乾燥塩化水素ヲ以テ塩酸化セシメタル後、之ヲ加熱シツツ膨脹セシメテ製シタル皮膜」と記載し、また包装の方法も、「皮膜内ニ被包装物ヲ挿入シ之ヲ再ヒ外部ヨリ加熱シテ、該皮膜ヲ被包装物ニ縮尺セシム」と記載するに過ぎないことは、先に認定したとおりである。そして右「特許請求ノ範囲」の項において「皮膜」を、「『ゴム』嚢ヲ、………塩酸化セシメタル後、之ヲ………セシメテ製シタル皮膜」と記載し、明細書中右『ゴム』嚢を開披する等のことは全然記載していないから、右皮膜は、少なくとも「嚢」であることは疑いがない。

しかしながらその他の論点については、「特許請求ノ範囲」は、これを明白にしていないから、特許明細書の全文すなわち「発明ノ性質及目的ノ要領」並びに「発明ノ詳細ナル説明」の項の記載を参照しつつこれを判断するに、本件発明は、「『ゴム』嚢ヲ塩酸化セシメタル後加熱シツツ膨脹セシムルトキハヨク其ノ原型ノ数十倍ニ膨脹セシメ得ルモノニシテ、斯クシテ製シタル皮膜ハ、常温ニ於テハ伸縮性ヲ失ヒ膨脹シタル状態ニ其ノ形状ヲ固定スルモ、之ヲ加熱スルトキハ、塩酸化セサル『ゴム』ト同様ノ伸縮性ヲ有シ、膨脹セサリシ以前ノ原型ノ状態ニ復サントスル性質ヲ有スルモノ」であるから、この性質を利用し、「適宜形状ニ調製シ、乾燥塩化水素ヲ以テ塩酸化シタル『ゴム』嚢ヲ、外部ヨリ加熱シツツ、内部ニ空気ヲ圧入シテ膨脹セシメル」工程を有し、次で「膨脹セシメテナル皮膜ノ内部ニ物品ヲ挿入シ、然ル後之ヲ再ヒ外部ヨリ加熱シ、該皮膜ヲ収縮セシメテ内部被包装物ニ密着セシムル」ことにより、「嵩低ニシテ且防湿、防乾燥並ニ防虫ニ適シ、長期保存ニ耐ヘ得ル包装物ヲ得」ることを目的とするものであるから、前記の工程に耐えるためには、「嚢」は常に「底のある」いわゆる一方口のふくろでなければならず、しかも何等の限定のない被包物について、前記目的を達成するためには、被包装物は、その全体を「ふくろ」のうちに入れ、直接外部に露出するところなからしめ、最後に「口部ヲ封鎖スル」ことを必須の要件としているものと認定するを相当とし、明細書に記載された三つの実施例は、いずれも右のように認定した本件発明を実施した態様として理解される。

原告は、「包装」の文字の使用について、特許庁発行の実用新案公報及び拒絶理由通知書の記載事項を引用し、「包装」という文字は、「全体の包装」ということを必須要件とするものでなく、一部を露出しても要所々々が被包してあれば、これまた「包装」であると主張し、その成立に争のない甲第一号ないし第十号証には、「包装」の文字を右原告主張のような意義に用いた記載のあることを認めることができるが、文字の内容概念は、必ずしも一定して不変なものではなく、その表現しようとする思想の内容に応じ、多少の範囲においては必ずしも一致しない意義を持つことができるものであるから、「包装」の文字が他の事例において、原告主張のように使用されたとの事実は、未だ、その表現しようとする思想全体に則応してなした前記の解釈を覆えすに足りるものではない。

また原告は、本件特許発明が必ずしも被包装物の全体を被包するものではなく、かついわゆる包装が密封する包装でないことは、原告が本件特許発明と同日に出願し特許された特許第一五三四八二号明細書の記載と比較しても明瞭であると主張するが、その成立に争のない甲第十五号証(特許第一五三四八二号「食料品の密封方法」の明細書)の記載によれば、右発明の要旨は、「適宜形状の『ゴム』嚢を乾燥塩化水素を以て塩酸化せしめたる後、外部より加熱しつつ内部に空気を圧入膨脹せしめて製した塩酸化『ゴム』嚢の内部に食料品を充填し、可及的余分の空気を除いて口を完封した後、これを熱湯中にて適宜時間加熱し、該加熱操作中並にその後の冷却時において、内容物の膨脹収縮に応じて外皮を膨脹並に収縮せしめて、食料品の滅菌と同時に密封を行うようにしたことを特徴とする食料品の密封方法」であつて、その作用、効果の要領は、本件発明におけると同様の方法によつて調製した塩酸化ゴム嚢の内部に充填する被包装物を食料品に限定し、これについて従来罐詰等において行われたように排気操作を行うことなく、しかも滅菌と同時に煮製、調味及び調理を行うことができるようにするため、その目的に応じて、塩酸化ゴム外皮の内部に食料を充填し、余分の空気を除いた後口を閉し、これを熱湯中において適宜時間煮沸し、加熱操作中及びその後冷却時において、内容物の膨脹収縮に応じて、外皮を膨脹収縮せしめて、完全に口部を密封するように修正を加え、別異の発明としたものと解するを相当とし、同発明が本件特許発明と同日に出願し特許されたとしても、そのために本件特許発明が必ずしも被包装物の全体を被包するものではなく、かつ、いわゆる包装が密封するものでないと判断しなければならないものではない。

四、以上認定したところにより、本件特許発明の要旨は、「適宜形状に調製したゴム嚢を、乾燥塩化水素を以て塩酸化せしめた後、これを加熱しつつ膨脹させて作つた、底のあるふくろ状の皮膜内に、被包装物の全体を入れ、これを再び外部より加熱して、該皮膜を被包装物に縮着せしめた後に、嚢の口部を封鎖することを特徴とする物品の包装方法」と判定せられる。

しかるに原告が特許庁において本件特許の権利の範囲に属することの確認審判を請求した、別紙目録記載の「イ」号説明書に示す積層乾電池素体の絶縁方法は、先に三において認定した本件特許発明の必須要件である、「底のあるふくろ状の皮膜内に、被包装物の全体を入れ、」皮膜を被包装物に縮着せしめた後、「嚢の口部を封鎖する」ことを何等要件としていないものであるから、原告の右特許の権利の範囲に属しないものといわなければならない。

しかのみならず、本件特許発明は、先に認定したところにより明白なように、「乾燥塩化水素を以て塩酸化したゴム皮膜」いわゆる塩酸化ゴム皮膜を、包装の資料として使用することを、その一構成要素とするものであるところ、「イ」号説明書には、その包装の資料を広く「加熱により伸張せられ、かつ内力を与えられた絶縁薄膜」と記載し、これを前記塩酸化ゴム皮膜及びその均等物に限つていない。しかもかかる絶縁薄膜のすべてが右塩酸化ゴム皮膜及びその均等物であることについては何等の証明もないから、「イ」号説明書記載の方法が、すべて本件特許の権利の範囲に属することの確認を求める原告の審判の請求が理由のないことは、この点からも明瞭であるといわなければならない。

以上の理由により原告の確認の審判請求を理由なしとした審決は適法であつて、これが取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)

(別紙)

目  録

「イ」号説明書

積層乾電池の素体を構成する滅極合剤、電解液吸収体及び炭素亜鉛結合電極を重ねた侭、その周辺に加熱により伸張せられ、かつ内力を与えられた絶縁薄膜を当て、加熱により内力の復帰性を利用して一体に抱合せしむることを特徴とする積層乾電池素体の絶縁方法

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